様々な網膜硝子体疾患について
糖尿病網膜症
糖尿病網膜症は、神経症や糖尿病腎症とともに糖尿病の3大合併症のひとつで、日本では中途失明原因の第3位の病気です。一昔前までは第1位でしたが治療の進歩によって失明を免れることが期待できるようになりましたが、早期発見・治療が最も重要であることは変わりません。
網膜には、光や色を感じ取る神経や、栄養を補給するための細かい血管が張っています。高血糖状態が続くと、血管が脆くなりつまります。網膜の血流が悪くなると、網膜に脆い血管(新生血管)を生じます。新生血管が破れると眼内に出血を起こし、この症状が進行していくと失明に繋がっていきます。
糖尿病網膜症の治療
糖尿病網膜症は、特に初期段階では進行しても症状が無い場合が多く、状況によってはレーザー治療、手術も必要になってきます。糖尿病網膜症の初期では糖尿病のコントールが最も重要になってきます。新生血管が生じた場合にはレーザー治療を行います。レーザー治療を行っても、病状が進行し、眼内に出血(硝子体出血)を起こした場合には硝子体手術を行います。
知らないうちに症状が進行していることが多く、まだ見えるから問題ないだろうという自己判断は大変危険です。当院では、患者様の症状段階に合わせた適切な処置をご案内致します。そのためにも、定期検診を受診していただくことをお勧めします。
加齢黄斑変性症
加齢黄斑変性とは、欧米で失明原因の最も多い症状で、日本でも食の欧米化に伴い発症者が増加傾向にあります。網膜の中心部である黄斑部の働きが悪くなり、酸欠や養分の不足が原因でむくみや出血を起こし、視野の中心部が歪んで見えにくくなったり、一部視野が欠けて見えたりする病気です。加齢のほかに、喫煙や、性別差、直射日光による原因も関わっているとされています。
加齢黄斑変性の治療
加齢黄斑変性には2つのタイプがあり、「滲出型」と「萎縮型」に分類されます。病状に応じた治療を行いますが、根治治療はありません。症状の進行を抑えることが治療目標になります。
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滲出型
滲出型は、網膜の下に広がる脈絡膜に生じた新生血管が出血することで生じる加齢黄斑変性です。このタイプは進行が速く、急激に視力が低下します。「新生血管型」、「ウェットタイプ」とも呼ばれています。 治療法としては、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)という物質の作用を抑制する抗VEGF薬を硝子体内に注入し、脈絡膜新生血管の拡大を抑え、退縮させます。薬剤の投与はまず1か月ごとに3回行います。その後は定期的検診で様子を見ながら、必要に応じて抗VEGF薬を投与していきます。
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萎縮型
加齢に伴って網膜の細胞機能が低下し、老廃物が蓄積して栄養不足になった結果、徐々に網膜が萎縮していくのが萎縮型です。症状の進行が穏やかなので、自覚症状に気づかない人もいます。萎縮型は「非滲出型」、「ドライタイプ」とも呼ばれています。残念ながら、萎縮型タイプの有効な治療法はまだ発見されていません。ただ、経過中に滲出型へ移行する症例も確認させているため、定期的に経過を観察することが求められます。
網膜静脈閉塞症
網膜静脈閉塞症とは動脈静脈交叉部などで網膜静脈が圧排・閉塞することにより、網膜に出血・浮腫を生じる病気です。高血圧・高脂血症・加齢などによって生じた動脈硬化が原因として挙げられます。網膜の血流が悪いままの状態を放置すると、網膜に新生血管や増殖膜が発生し、硝子体出血や網膜剥離・緑内障などの失明につながる病態を引き起こすことがあります。
網膜静脈閉塞症の治療
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黄斑浮腫に対する抗VEGF療法
網膜の静脈が閉塞すると網膜の血管から血液や水分が漏出し、網膜の中心(黄斑部)にむくみ(浮腫)を引き起こします。これは眼内にVEGF(血管内皮増殖因子)が放出されることによって引き起こされています。網膜の浮腫は視力を低下させ、見えにくさや物のゆがみの原因になります。
浮腫の原因であるVEGFの働きを抑える薬剤を眼球に注射し、浮腫を改善させる治療です。浮腫の改善により視力の回復が期待されますが、浮腫が長期間生じていた場合には視力回復が得られない場合もあります。注射の効果は1~2ヶ月程度のため、効果が切れると再発することがあります。必要に応じて注射の追加を検討します。
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網膜光凝固
網膜の静脈の閉塞が強いと網膜全体の血液の流れが悪くなり、網膜に異常な血管(新生血管)が生じます。網膜光凝固術は血流が悪い部位にレーザーを照射することにより、新生血管や増殖膜の発生を抑えます。
網膜光凝固を行っても新生血管が消失しない場合には眼内に出血(硝子体出血)を起こすことがあります。硝子体出血を起こすと硝子体手術を行い、出血を除去します。
網膜前膜(黄斑上膜)
網膜前膜は網膜の中でも最も視機能に大事な黄斑というところの上に膜が張る病気です。
網膜の上に張った膜が網膜を牽引し、障害を起こします。
網膜前膜の治療
網膜前膜を放置しても失明することはほとんどありません。しかし膜が自然になくなることはなく、膜を除去するためには硝子体手術が必要になります。膜を除去しても視力が完全に戻ることはありませんが、視力が極端に落ちてしまう前に手術を行った方が、視力の回復も良好です。
黄斑円孔
黄斑円孔は網膜の中でも最も視機能に大事な黄斑というところに孔(あな)が開く病気です。
黄斑円孔の治療
黄斑円孔を放置しても失明することはほとんどありません。しかし自然に閉鎖することはまれであり、黄斑円孔を閉鎖させるためには硝子体手術が必要になります。
現在の手術では一回の手術で円孔が閉鎖する確率は90%以上です。円孔が閉鎖しても元の視力に戻ることはないため、手術は早期に行った方が視力の回復は良好です。
裂孔原性網膜剥離
網膜が硝子体の牽引をうけて、網膜が裂け(網膜裂孔)、網膜が剥がれる病気です。
原因として、加齢、近視、外傷によるものが多く、時に、アトピー性や遺伝性を伴うことがあります。網膜の中心部(黄斑部)が剥がれると視力が低下し、放置すれば、網膜の働きが低下して失明する危険性が高くなります。
裂孔原性網膜剥離の治療
網膜裂孔のみの状態ではレーザー治療で治すことができますが、網膜剥離を生じると、手術が必要になります。
手術は局所麻酔で行います。
多くの裂孔原性網膜剥離では硝子体手術を行います。網膜を牽引している硝子体を除去し、眼内にガスを入れ、網膜を元の位置に戻します。術後はうつむき姿勢が必要になります。
網膜硝子体手術について
水晶体が術後に混濁する可能性がある場合や、現存の水晶体混濁により術野が見えにくくなる恐れのある場合は、白内障手術を同時に行うことがあります。
網膜の伸展、接着効果を得るために、空気(もしくはガス)を眼内に入れることがあります。このときは、網膜の接着効果を高めるため、空気(ガス)が自然に吸収されるまで、うつ伏せによる治療が必要になります。うつ伏せは、食事とトイレ等を除いて就寝中も行います。うつぶせの期間はいれるガスの状態によって変わります。
(1週間以内・2週間前後のものがあります。場合によっては二期的な手術を必要とするシリコンオイルを入れることがあります)
ガスが入らなかった場合は特に頭位の指定はありませんが、眼を押さえないようにしてください。
手術の合併症
手術を行うと手術中、手術後に合併症を生じる危険性があります。
合併症をなくし、危険性をゼロにするために医療技術は進歩していますが、未だその目標は達成途中にあります。
硝子体手術の主な合併症は、
出血 | 前房出血・硝子体出血:程度により経過を診ます。 駆逐性出血:ごく稀におこります。手術続行が困難となり失明の危険性があります。 |
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感染症 | ごく稀ですが強毒菌では失明の危険性があります。 |
緑内障・眼圧上昇 | 術後一時的に上昇するときと、将来高くなることがあります。 |
網膜剥離(再剥離) |
などが挙げられます。
また、予測の出来ないような合併症を生じることもあります。発生頻度はごくわずかですが、合併症が生じれば手術や薬物療法(点滴、内服、点眼)による治療が必要になります。治療によっても視力が回復せず、失明してしまう場合もあります。術中に循環疾患などにより全身状態が急変したり、麻酔や抗生物質に対するショックが発生したりすることがあります。これらに対応できるように全身モニターを行って手術を進めます。
術後の視力・経過は眼の状態により異なります。
抗VEGF療法について
VEGF(血管内皮増殖因子)は脈管形成および血管新生に関与する一群の糖タンパクです。主に血管内皮細胞表面にある血管内皮細胞増殖因子受容体 (VEGFR) にリガンドとして結合し、細胞分裂や遊走、分化を刺激したり、微小血管の血管透過性を亢進させたりする働きをもちます。正常な体の血管新生に関わる他、加齢黄斑変性や糖尿病網膜症などの病的な血管新生にも関与しています。
抗VEGF療法とはVEGF抗体を硝子体内に注射することで、脈絡膜新生血管の成長をおさえる治療です。現在、本邦で認可されている抗VEGF療法の適応疾患は加齢黄斑変性と近視性血管新生黄斑症,網膜静脈閉塞症,糖尿病網膜症です。
抗VEGF療法は日本では2008年に加齢黄斑変性に対して治療が可能になりました。その後、2013年から2014年には強度近視による新生血管、網膜静脈閉塞症と糖尿病網膜症による黄斑浮腫に対しても治療が認められた最新の治療法です。これらの疾患は何れも眼底に新生血管が作られることが関与しています。
抗VEGF療法ではVEGFに対する抗体の一部であるranibizumab(ルセンティス®)或いはVEGFの受容体とヒト抗体との融合蛋白であるaflibercept(アイリーア®)を硝子体に注射することによって,VFGFと血管内皮のVEGF受容体間の結合を遮断することによって 新生血管を縮小させます。
外来での日帰り注射ですので処置自体はすぐに終わります。治療には複数回の注射を要します。